酔っ払った勢いでずるいと呟きたい

捻くれ者でケチでゲーマーとかいう私のタイプの対極をいく人におちた話。

Hit the floor / 大野智

今日は憂鬱な日だった。

車の中から窓越しに上を見上げる。そこは暗雲がもくもくと立ち込め、今にも雨粒が落ちてきそうな重たい空。何層にも重なる雲は色を濃くしている。自分の心の周りにある何かと同じような色、質感、重量感、匂い。どうしてこんなにリンクするのか。気分と空はどちらが先なのだろう。余計なことを考える。

隣には彼がいる。どうやら彼はいつになく気分が良さそうだった。少し気味が悪いくらいだ。そもそも今日はなぜ仕事の後ドライブに行こうなどと言い出したのだろう。車を運転するくらいなら船を操縦しそうな人なのに。

 

そんなことを考えながらぼうっとしている間にもタイヤは回る。景色は変わる。

 


それからどれくらい時間が経っただろう。ずっと定速で車は走行していた。黒々した山が切れて月が顔を出す。その瞬間を何回も見た。夜の高速道路特有のオレンジ色のランプ。電球が切れたのか白い光が数分に一回のペースで訪れた。左に小さく刻まれている数字。どこかがゼロで始まりがある。小数点込みで数字が増えてゆくのを見ていた。何気無いもの、目に入るものをぼうっと追う。暗い中にも変わっていくものがある。雲は夜になるとむしろ月の光に照らされて明るい。いや、光が当たっていないところでも何もない空より明るく見える。

 

 


ひと通り眺め終わったのかそんなことをして過ごしている自分に気づいた。可笑しくて一人で小さく笑う。...しまった。いきなり笑ったのを見られていたかもしれない。なんだかこっぱずかしい。少し時間を置いてから何気無く隣のドライバーに目を向けてみる。そこには先ほどとは異なりいつものように気の抜けた顔で運転している彼がいた。への字に曲がった口。だらんとした猫背気味の姿勢。半目だけれどしっかり前を見据えている色っぽい瞳。しかし、何故だろうか、何かがいつもと違う。何かがいつもと決定的に違った。髪?違う。なんだろう。少しいやな胸騒ぎがした瞬間、わたしの口から即座にことばが出ていた。
「ちょっと休もう?」



サービスエリアに着く。暗い中で走って来たので目が明るさに慣れていない。眩しい。耐え切れず目を細めながらもやっとのことで車を止めた。自然の空気を感じたく外に出ようとした。


彼は神妙な面持ちで目先のコンビニを凝視している。視線は揺らがない。目から一筋の光が発せられるかのような意思の強い眼差し。



なんだか怖くて顔を前に戻す。


その瞬間、彼がにこりとしたのが横目で見えた。



 



えっ。









目を開けるとよく見慣れた模様が飛び込んできた。うちの天井だ。うん、すごくよく寝た。いい気分だ。布団の中。温かい。太陽の光からしてまだ早朝だろう。いい朝だ。隣で気持ち良さそうな寝息を立てているのが聞こえる。そろそろ起こす時間だろう。少し布団の中でもぞもぞしてから重い身体を起こし携帯を開く。

 

 


ー 日曜日。


あれ。なんだ、起こさなくていいじゃん。もう一度寝ようかと思い布団をかけ直す。そしてふと思った、昨日は土曜日。何をしていたのか。全く思い出せない。記憶を巡らせようとすると頭がチカチカする。夜の車から見る街の光のよう。


なんだかな。思い出せないや。隣を見ると地面には夜中じゅうゲームをやってそのまま寝落ちしたあとがあった。顔を見るとクマができている。「...ゲームのやりすぎだよ。」私は寝起きの声で呆れ半分で呟きながらも気持ち良さそうに寝ている彼を見てほっこりした気分になった。うん。そうだ。起きたら聞いてみよう、昨日の話。そうして私もまたもう一度目を閉じるのであった。